治療について

消化管グループの内視鏡治療の特徴

消化管グループの内視鏡治療の特徴

当科が主に行っている内視鏡治療は以下の通りです。
  1. 食道表在がんに対するESD(図1)
  2. 早期胃がんに対するESD(図2)
  3. 大腸腺腫・早期大腸がんに対するポリペクトミー、EMR、ESD(図3)
  4. 表在性十二指腸腫瘍(非乳頭部)に対するEMR(図4)およびESD(図5)
このように当科ではすべての消化管における内視鏡治療を行っております。
図1.食道がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) 
図2.胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) 
図3.大腸がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
図4.表在性非乳頭部十二指腸腫瘍に対するOTSC®併用内視鏡的粘膜切除術(EMR with OTSC ; EMRO)
図5.表在性非乳頭部十二指腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)とOTSC®を用いた切除後潰瘍底の完全閉鎖

 

内視鏡治療の適応

内視鏡治療が行われる条件は、がんがリンパ節に転移している可能性がない場合、あるいは その可能性が極めて低い場合で、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあることです。 各臓器によって内視鏡治療の適応が異なりますので以下にお示しします。


食道がんの内視鏡治療の適応

食道がんにおいては深達度(がんの深さ)が粘膜層(T1a)のうち、EP/LPM 病変では、リンパ節転移はほとんどなく、内視鏡治療により十分に根治性が得られます。深達度が粘膜筋板(MM)に達したもの、粘膜下層にわずかに浸潤するもの(SM1;200μm まで)では内視鏡治療は可能ですが、リンパ節転移の可能性が10~20%程度あり、内視鏡治療は相対的な適応となり、診断的なものとなります。粘膜下層(T1b)に深く入ったもの(SM2・SM3;200 μm 以上)ではリンパ節転移の可能性が40%以上あり、表在癌であっても進行癌(固有筋層以深へ浸潤した癌)に準じて手術または化学放射線療法を行うことが推奨されています。
食道がんの内視鏡治療の適応1
図1.食道がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) 


胃がんの内視鏡治療の適応


胃がんは胃の粘膜から発生し、発生してから初期の段階では粘膜内にとどまっていますが、大きくなるにしたがって下図(図5)のように次第に粘膜下層、筋層、漿膜下層へと達します。その先端部がどの深さまで達しているかを腫瘍の「深達度」と呼んでいます。がんが粘膜または粘膜下層にとどまっている状態はリンパ節転移の可能性が比較的少ないことがわかっていますので、この状態を「早期胃がん」と呼んでいます。早期胃がんに対する内視鏡治療の絶対適応は胃癌治療ガイドラインにおいて以下のように定められています。
腫瘍の深さ(深達度)と進行の程度

 

腫瘍の深さ(深達度)と進行の程度

絶対適応病変

<EMR/ESD適応病変>
  • 2cm以下で潰瘍のない分化型粘膜内がん
<ESD適応病変>
  • 2cm以上で、潰瘍のない、分化型、粘膜内がん
  • 3cm以下で、潰瘍のある、分化型、粘膜内がん
適応拡大病変
以下の条件にあてはまる場合は、リンパ節転移を伴う可能性が極めて低いとされているため、 適応拡大病変として内視鏡治療(ESD)の適応が拡大されています。
  • 2cm以下で、潰瘍のない、未分化型、粘膜内がん 
相対適応病変
上記、1.2以外の病変の標準治療は外科的胃切除です。しかし、年齢や併存症など何らかの理由で外科的胃切除を選択することが難しい早期胃がんの場合はリンパ節転移の割合(表1)などを考慮しながら、患者さんに十分説明を行い、理解と同意が得られた場合のみ内視鏡治療が選択されることもあります。
このような病変を相対適応病変としています。
表1.外科切除例からみた早期胃がんのリンパ節転移頻度
がんの深さ 潰瘍 分化型 未分化型 脈管侵襲
粘膜内 なし ≦2cm >2cm ≦2cm >2cm ly0 , v0
0% 0% 0% 2.8%
あり ≦3cm >3cm ≦2cm >2cm
0% 3.0% 2.9% 5.9%
粘膜下層軽度浸潤 ≦3cm >3cm
0% 2.6% 10.6%
(胃がん治療ガイドライン 医師用2018年度版より 一部改変)

 

図2.胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) 


大腸がんの内視鏡治療の適応


大腸がんにおける内視鏡治療の適応は、リンパ節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一括切除(ひとつの標本として切除)できる大きさと部位にあるものとされています。内視鏡治療の適応基準としては、
  1. 粘膜内癌,粘膜下層への軽度浸潤がん
  2. 大きさは問わない
  3. 肉眼型は問わない
と定められています。大腸がん治療ガイドラインの規定により表2のような流れで方針を決定しています。
早期大腸がんに対する治療方針
表2.早期大腸がんに対する治療法
大腸がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
図3.大腸がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

 

内視鏡治療(主にESD)に伴う偶発症について

治療後比較的生じやすいもの
・軽い痛み・違和感

問題なく治療ができ、治療後順調に経過すれば強い痛みを感じることは基本的にはありません。ただ、治療した部位周辺に軽い痛みや違和感を訴える方はおられます。基本的には治療後3日前後で消失します。

・発熱

治療後は微熱がでることがあります。これは内視鏡治療を行った部位の傷が治癒する過程で生じる人体が反応している熱と考えられます。そのため風邪などの際に生じる熱と異なり、患者さんは自覚しない熱がほとんどあり、きつさなどは感じないことがほとんどです。治療後3日前後で消失します。

・術後の頭痛・嘔気

鎮静剤や鎮痛剤を使用した場合、その薬剤の効果や代謝の程度によっては軽度の頭痛や吐き気を自覚することがあります。ただし、治療後2日前後で消失します。

生じた場合は適切な対応が必要なもの
・出血

治療後の傷から出血した場合は突然吐血、下血、血便として症状が出現することがあります。一般的には治療後24~48時間以内が多い印象ですが、入院期間中はこれらの症状がないかを毎日観察します。出血が疑われる場合は緊急で内視鏡を行って止血術が必要なこともあります。内視鏡で止血できない重篤な出血の場合は血管造影による塞栓術や緊急外科手術となる可能性もあります。

・穿孔(せんこう)

治療中、治療後に病変を切除した部位の壁に穴が開いてしまうことです。当院では全ての臓器(食道・胃・大腸・十二指腸)において発生頻度は1%以下です。治療後に穿孔が生じれば、高熱や強い腹痛(腹膜炎の症状)が生じることがあります。治療後に穿孔を疑えば各種検査(血液検査・腹部X線・腹部CT検査など)を行い、早急に穿孔の診断を行います。穿孔と診断した場合でも、軽症の腹膜炎の場合は抗生物質の投与による保存的治療、可能な場合は緊急内視鏡検査および内視鏡クリップを用いた穿孔部の閉鎖(穴を閉じる)を行います。しかし、穿孔の程度が大きく、重篤な腹膜炎を生じた場合や内視鏡で対応できない穿孔の場合は緊急外科手術の可能性もあります。

・その他

内視鏡治療を受けられる方の背景には様々な基礎疾患をお持ちの方、ご高齢の方もおられます。治療を受けられる前や後に治療とは全く関連性のない予期せぬ重篤な疾患(心血管・脳血管疾患)やその他何か不測の事態が起こる可能性があります。私たちは常にこのような不測の事態に備えて対応できる体制をとっておりますし、その都度きちんと説明、最善の対処を行うことで対応いたします。また、実際に治療を行っても内視鏡では病変が取れない事や途中で中止(内視鏡治療適応外であった・治療を継続すると患者さんに危険が及ぶなどの様々な理由)する事もありえます。これらのことを十分ご理解いただいた上で内視鏡治療を受けて頂く必要があります。

 

内視鏡治療(特にESD)入院後の経過について

基本的に当科での内視鏡治療はクリニカルパス(図)というあらかじめ決められた一定の流れに沿って術前および術後は経過をみさせていただいています。治療する臓器や内容によって若干経過観察の内容が異なりますが、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の場合、入院から5~6日で退院が可能です。詳細は実際のクリニカルパス(表3)をご参照ください。
表3.ESDクリニカルパス 入院から退院までの流れ